「オスカー(ピーターソン)と一緒にプレイする醍醐味は、わずかひとつの音でも、そこに半世紀余のジャズの歴史が詰まっているという、重厚な雰囲気を味わえること。
コンサートをやるたびに、歴史的に重要な出来事の一翼を担っている意識がわき起こってくること。それこそ殿堂入りしたかのような気分だよ」。04年秋にピーターソン・カルテットの一員として来日したウルフ・ワケーニウスは、なかば興奮気味にこう語ってくれた。97年、巨匠直々の命を受け勇躍殿堂入りすると、ツアーやレコーディングに全力投球を続け、「オスカーとギタリストの系図」を実り豊かなものにしてきたわけだが、このことがソロ活動にもはずみをつけたのは言うまでもない。特に、『トーキョー・ブルー』『チェッキン・イン』『エターニティー』などの好作品を連発。こうしたプロセスを振り返れる人には、今度のこの「イン・ザ・スピリット・オブ・オスカー」は当意即妙のものだろう。
巨匠にお仕えしてそろそろ10年。拝受した薫陶がワケーニウスの創意の奥で発酵し、独り歩きを始めてもおかしくない時間が過ぎたからだ。
成田 正
